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ルーウェル&瞑
前回のサマルの話につながってます。
多数のリブによる大規模な化物狩り。

藍色 

モンスターは必要悪で、倒されるべき存在だと誰が言っていたのだろう。

霞掛かる脳内で記憶を引き出そうにも何一つそれらしい出来事は思い出せないまま
熱く、刺すような痛みで現実に引き戻された。
喉元まで競り上がる血の塊をそのまま吐き出すと口元から胸元まで滴り落ちていった。

先程から喚く耳障りな声音。
そして木々の合間から見える満月(ああ今は夜なのか)
目まぐるしい程の速さで後方へ流れて行く景色、背から伝わる振動に身体の力を抜く。
長身の男を横抱きで走る男なんて、そうそういやしない。
視線を満月から少しずらせば場違いな金色が見えた。

「頼むから、寝ないでくれよ」

珍しく焦りを隠しもしない男の声。
暗闇の中でも僅かな月明かりで光る金色の髪は憎らしい程、眩しい。
口を開けば学の無さが滲むが、ただ黙ってさえいれば整った容姿だと思う。
こんな月夜よりも、陽の下でニコニコと馬鹿面してりゃいいのに、とも思う。
そんな男がコートを赤黒い血を汚し、泣きそうな顔でいるのだから憂鬱な気持ちにもなる。
(昔から馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。)

この男はリヴとは良好な関係を築いていた。
女王の命に背き、翅をを捨て己の意志を貫く程にリブを愛していた。
それが、たかだか1匹の蜘蛛の為に、多くのリブを手に掛けた。
やっと得た信頼を、己の手で全て壊したなど、愚かにも程がある。
襲撃した者の内、数名を逃がしてしまったから万が一この男の顔を覚えられていたら
彼が狩られるのも時間の問題だろうか。彼はこの後どうするつもりなんだろうか。

「はやく、はやくオレの家まで行こう、それかサマルちゃん所の泉か…
それともあの黒鳥かな…早く、早く行かないと。ねぇ瞑君、寝ちゃダメだ。」

纏まらない思考の中、ただ表面を撫でる様に途切れない様に話しかけてくる男の声。
裂かれた腹の熱さとは別に、抑えた指先から冷たく溢れゆく命の感覚にひそりと息を吐く。
消える前に、この男には伝えなきゃならない事があった。
多くの感情を殺して、たった一つの疑問だけを救い上げて、そっと零す。

「なぁ、ルーウェル。」

何?と問う、男ールーウェルーの深い藍色の双眸が揺らぐ。
薄く張る水の膜がキラキラと光りまるで夜空の様だと思った。
男の口元が恐怖で引き攣っているのはこの際無視をしよう。

「ユークという男の名に覚えはないか?」

ユークと呼ばれた男はどこかで見た事のある顔だった。
友好的な知り合いではないにしろ一度、二度位は会った事があるのだろう。
個へ向ける憎悪のなんと大きな事か。

 「次に、伝えてくれ」

先程よりも、狭まる視界にそろそろタイムリミットなのだろうと漠然と理解する。

「瞑君」

視えなくなった男の顔と、耳に落とされる泣きそうな声音。
濃くなった水の気配に、泣くなよ、と呟けば嗚咽が返される。

「今更そんな顔…ずるいよ、」

肉体は死すとも、記憶は受け継がれ新しい身体で目覚めるだけだ。
それはリヴもモンスも変わらない。
名を呼び、現世に繋ぎとめる様に己の指先を包み込む男の熱に馬鹿な事をしたものだ今気が付いた。
先に残して 逝くべきじゃなかった。なんとしても生き残ればよかった。

そして芽生えた感情は自覚と同時に殺さなければならなかった。
悔やまれるの事は、次世代へこの感情が【単なる記憶】として残される事だ。
そんな事は判り切っているが
それでも、今気付いたこの男への感情を
単なる【記憶】として次の俺に風化されない事を願うばかりだ。

おやすみ、最愛の


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