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ENDER ENDER ② [小説(目次推奨)]



サマルとアリア君

ENDER ENDER ②


胸の詰まる思いで、屋敷の前に佇む。
通いなれた道、見慣れた景色。脳裏に描いた景色より僅かに庭の植栽が変わるのみ。
数年前の年の瀬に緊張しながら彼にパン等を届けに行った、その時に彼は何といっただろう。
「 サマル君 」
未だに鮮明に思いだす、柔らかな声音と、少し不器用な優しさを思い出して胸が痛む。
屋敷の窓から漏れる明かりにまだ彼が居る事を確認する。

彼の執事や仲間の人達はとても敏い人達だから、会いに来た事位気付いているかもしれない。
けれど、誰も反応をしないという事は此方の意思を尊重しているのだろうか。
それでも、臆病な今の自分にはこの屋敷の扉を叩くには余りにも勇気が足りない。
会いたいと急く心と、心の底に蟠る黒い影。心の底にチラつく赤い影には蓋をして頭を振る。
彼が生きてる事を確認出来れば良しとする。
今更会って、傷付けるのではないかと不安感が胸の内を冷やしていく。
彼の住まうだろう部屋の明かりをどれ程見ていただろうか。
徐々に滲む景色と、息苦しさに来た道を戻ろうと踵を返し、数歩進んだ先で立ち留まる。
会わないと、決めて背を向けた途端に広がる後悔の念と寂しさに胸が詰まる。

(これは自分の我儘、だけれども。)

指先を宙に滑らせて、暗闇に浮かぶ薄緑色の画面に簡素な言葉を綴る。
最後に一言添えれば、ディスプレイから文字で構成された小さな白い鳥が掌に留まる。
窓辺まで飛び立ってくれれば明日の朝に彼の目に触れるだろうかと思う。
文字で出来た鳥を飛ばそうと掌を僅かに上げた所で、カチリ、と後方で音がした。

ー凍り付くというのはこの状況を言うのだろうかー

地面に縫いとめられたかの様に動かない足を無理矢理動かして緩慢に振り返れば徐々に開いていく玄関扉。
まさか、と思う反面、彼以外の人々ならこんなに恐々扉を開けはしないだろう。
飛び立つタイミングを失った文字の鳥は、宙に霧散した。
これで、関節的に言葉を伝える術は失ったサマルの心臓は今や早鐘の様に鳴り響いている。

「アリア君…」

異常なまでに乾いた口内から零れた言葉は届いただろうか。
見慣れた、柔らかなクリームホワイトカラーの髪に長身の青年がサマルの数歩先に佇んでいる。
見間違う事などある筈が無い。この屋敷の主で長年の友人であるアリアクロードその人であった。
彼はサマルを見て僅かに視線を伏せる様に地に落とす。
言葉を考えあぐねいているのかそれとも別の何かがあるのか判らないが、彼の言葉を待つ。
僅かな沈黙の後、彼はサマルを見据えて唇を開いた。

「サマル君、おかえり」

凛とした声音は焦がれて止まない友人の声音と歪む表情に、サマルの身体が震えた。
彼に会えば言いたい言葉は沢山あった。
置いていって、傷付つけてごめん、様々な感情が競り上がっては消えて行く。
もし、これが逆の立場だったならば、サマルは真相を知りたくないし怖くて二度と会えなかった事だろう。
扉を開けてくれた心優しい友人の一言がこんなにも己の心を掻き乱すとは思っていなかった。

「ごめん…ごめんなさい」

思っていた以上に大きく響いた一言の言葉を吐き出して、彼の元へと行く。
記憶の中の彼は自分なんかよりも断然強そうで柔らかな空気を纏いつつも
常に凛としていた気がしたが、現在のアリアクロードの姿はどことなく頼りない印象を受けた。
震える両腕を伸ばして抱きしめる。背に回した指先が彼の手触りの良い布に触れる。

「ごめんなさい、アリア君、長い間キミを待たせてしまいました。」

そうじゃない、とぽつりと返された言葉に顔を上げれば
通常では見えないだろう美しい深緑色の双眸と視線が合った。
彼が待っているものはと考え、言い直す。
謝罪でも、空白期間の事でも無くたった一つの言葉を。

「…ただいま、アリア君。」

「おかえりなさい、サマル君」

ぽつりと、返ってきた返答にそろりと息を付く。
スン、と鼻を鳴らす可愛い友人とじわじわと伝わる布越しの体温
そして肩越しに見た冬の夜空。この景色は生涯忘れる事が出来ないだろう。

「ただいま」

もう一度、この言葉を噛み締める様に吐き出した。


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コメント 2

駒込

(`;ω;´)こんばんは、駒込です。
しょっぱなから号泣涙腺崩壊しまくりました。サマル君の切ない葛藤、そして感動の再会!
嗚呼、逢えて言葉を交わして触れ合えることの何と幸せな事か・・・!と痛感いたしました。
おかえり と ただいま の四文字には溢れるほどの想いがこもっているに違いありません。

サマル君にぎゅってされたらもう涙腺崩壊待った無しです。プライスやプライスレスやで・・・!
感動的な再会話、本当にありがとうございます。(`;ω;´)ぶわわっ
あと珍しく空気を読めてたギャラリーも書いて下さってとっても嬉しかったです。
by 駒込 (2015-02-21 20:42) 

Az

涙腺崩壊なんてそんな、誰かハンカチ!ハンカチを!!本当に私なんぞに勿体無いお言葉ありがとうございます。

サマルにとって掛け替えの無い存在であるアリア君は会いたい反面、アリア君を傷付けたく無くて、みたいな気持ちがずっと心の底に蟠ってたので。アリア君、会ってくれてありがとう!そして辛い思いをさせてしまってすみません。

アリア君宅の皆さんは、凄く聡明な方が多いイメージでしたので…サマルがアリア君に何を伝えるも諦めて立ち去るもアリア君に害が無ければ見守ってくださる気がしまして。。

細かく迄読んでコメントくださりありがとうございます。これからもアリア君宅にちょこちょこ会いに行くと思いますのでその際には何卒宜しくお願い致します(ノω`*)
by Az (2015-02-23 00:41) 

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