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きみの記憶は、 [小説(目次推奨)]


重要事項の記載がございます。
先に1個前の記事をお読み頂けましたら幸いです。


きみの憶は、

    (凶鳥+黒猫+ロゼ) チョコ企画その①


「ノエイン、はい。」
片手間に、唇へ充てられた甘い洋菓子は人肌の温度でさえ解けてしまう程繊細なものだだった。
仕方なしに薄く唇を開き彼の指先から洋菓子を受け取ると目前の彼は嬉しそうに微笑んだ。

彼が私にくれたものは、きっと私宛のものではない。誰かが彼にくれたものだろう。
ちらりと横目で見れば机の上に置いてある綺麗にラッピングの施された箱
客からの貰い物か、はたまた拾い物か。

「ありがとう、イスマーニ。」
お礼を言えば、彼は一層満足げに黄緑色の瞳を細めた。
じわりと口内に広がる、酷く甘ったるい味は彼の好みから程遠い。
-彼の味覚をしらないで、よく渡せたわね-

黒鳥は一日の半分を寝て過ごし、時折黄緑色の瞳で別世界の住人と話をする。
同じ島の住人、ゲッコウヤグラの青年から言わせれば、死人と生者の境界線が判らないのだろうという
その特異な目で見るのは何も死者だけではなく、少し先の場所や、未来までも見えるというのだから性質が悪い。
彼はその性質からか、周囲より占い師だと言われ、時折訪れるリヴと話をしては礼として硬貨や食料を貰っている。

今回のもらい物は明らかにイスマーニへ向けた好意的な品だろうが
彼は机に頬杖を付き、気だるそうに手紙を読むと興味なさ気に指先で破いては、空いたグラスに詰めた。
指先でグラスをなぞれば、グラスの中の紙が青い炎をあげて燃え尽きる。

(まぁ手紙を読んで貰えてよかったわね、って思ってあげればいいのかしら…?)
名前も知らない誰かの、彼へ充てたプレゼントを

「ノエインは甘いもの、好きだよね。」
「ええ、あなたが押し付けられたものを、奪って食べる位には。」
「そう、それは良かった。これは俺じゃどうしても食べられないからね。」

彼は、食が細く滅多に食事をしない。だからこの様なものを押し付けられても困るだけだ。
無理やり食べた所で吐いてしまう彼は食料は殆ど最低限の物しか取れない。

「彼の想いが詰まり過ぎて俺には無理なんだよなぁ。」
「え?、彼?・・・え?え?」
くつくつと喉を鳴らして笑う黒鳥に、私は思わず声をあげる。
なんだか友人渡すネタが1つ出来てしまった気がする。

****

「あぁそこの黒鳥、ちょっと頼み事をしても良いかな?」
 
切り離された空間で、深々と降りしきる雪の中
寒さをものともせず佇む、葡萄酒色の鮮やか髪をした男が声を掛けてくる。

「この品を何処かへ捨ててくれないかな?」

綺麗なラッピングの施された小箱は以前に街中で見かけた洋菓子店の品だろう。
その際に黒鳥の隣で黒猫の少女が人だかりを見て、どれ程人気の店なのか
語っていた事を思い出す。

「どんな場所でもいい、ただ私の目に映らない場所へ捨てて欲しいんだ。
 まぁ食べちゃってくれてもいいよ、それなりに美味しい店で買ったものだからね。」

男は深緑の相貌を歪ませて、口端のみ弧を描かせ穏やかに微笑む。微笑もうとする。

「わたしを呼び出したのはその為か?
 お前はその品を、蜂に買いに行かせたというのに、その品を捨ててしまうのか。」
「これは私にも、友達にも重いものだからね。悪いけど廃棄してしまいたいんだ。」 
苦々しく吐き出した言葉と共に、差し出された小箱を何故か黒鳥は振り払う事が出来なかった。

************

「ねー、イスマーニ、あの手紙にはなんて書いてあったの?」
「さぁ、判らなかったなぁ。」
「・・・?外国の言葉なの?」

正確には、異形間で伝わる文字の並びを思い返す。
悲痛な想いの込められた言葉は、隣に佇む黒猫へは決して伝えてはいけないものだろう。


庭先へと出て、土に手紙の灰を撒きながら、黒鳥は歌う。
あの品は、本来手渡されるべきだった相手は、西の森に住む蜘蛛だろう。
丁寧に書かれた手紙の内容を思い出しては、胃の内から競り上がる不快感を飲み込んで
そっと息を吐くように、歌う。




                                                   -死者の嘆きも、聞こえはしない。


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